【記憶遺産戦争】拠出金停止よりも地道な資料検証が先だと思う

 中国が申請した「南京大虐殺関連文書」がユネスコ世界記憶遺産に登録されたことに対し、日本政府が抗議したんだそうで。
 世界遺産登録で韓国相手に一悶着あったばかりなのに、騒々しいことです。
 
平成27年10月10日
ユネスコ記憶遺産の新規登録について(外務報道官談話)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_001450.htm

2 一方,中国の関係機関によって申請された「南京事件」に関係する文書についても登録が発表されました。当該申請案件は,例えば,日中両国の歴史共同研究でも示されてもいるように,日中間で見解の相違があることが明らかなものです。それにもかかわらず本件は,中国の一方的な主張に基づき申請されたものであり,当該文書は完全性や真正性に問題があることは明らかであると考えます。日本政府が,これらの基本的な考え方について随時申入れを行ってきたにもかかわらず,当該案件が記憶遺産として登録されたことは,中立・公平であるべき国際機関として問題であり,極めて遺憾です。

3  記憶遺産事業は,文書遺産の保護やアクセスの確保等を目的として,当該基準を満たした文書等を登録するユネスコの事業です。この重要なユネスコの事業が,政治利用されることがないよう,我が国は責任あるユネスコ加盟国として,然るべく本件事業の制度改革を求めていく所存です。


 信毎や他の一般マスコミのネット記事を見ても、申請された文書の中身がどんなものなのかイマイチ見えてきません。

10月11日 信濃毎日新聞1面

南京大虐殺紀念館などによると、提出した関連資料には、判決で「犠牲者30万人以上」とした南京軍事法廷の記録や極東国際軍事裁判(東京裁判)の資料などが含まれている。(南京、東京共同)

 「申請した資料は、日本から揚げ足を取られないように厳選した」
 中国江蘇省の南京大虐殺紀念館で10日、記者会見をひらいた朱成山館長は虐殺を否定する見解が日本国内にあることを強く意識した。その上で「世界が南京大虐殺の歴史に共通認識を持った」と登録の意義を強調し、胸を張った。


 信毎の記事から分かったのはこれだけでした。

 資料の具体的な中身が見えてこない背景には、記憶遺産の登録の仕組みがあるようです。

10月11日 信濃毎日新聞3面

「中国側は資料の開示請求に応じてこなかった。申請したのも各地の公文書館などで中国政府ではないので、政府間協議もできなかった」。日本政府関係者はこう語り、川村外務報道官談話が示した批判の矛先がユネスコに向けられた理由を説明する。
 一方、登録申請に当たった中国の関係部門幹部は「日本側は資料の具体的な問題点を指摘せず、登録に反対するのは理解できない」と強調。双方の主張はすれ違い、記憶遺産をめぐるきしみに日中両政府が今後対処できるかどうかは不透明だ。


2015.10.10 産経ニュース
審査非公開、反論機会なく…問われる密室性 透明性確保の必要も
http://www.sankei.com/life/news/151010/lif1510100015-n1.html

 同じユネスコの世界遺産や無形文化遺産では登録の可否が公開の場で議論されるのに対し、記憶遺産は非公開の国際諮問委員会で審査され、ユネスコ事務局長が追認する仕組み。4~6日に開かれた委員会も非公開のため、日本側に反論する機会はなかった。こうした仕組みのため、中国側が登録申請した「南京大虐殺文書」や「慰安婦関係資料」について、日本政府はこれまで外交ルートで中国側に繰り返し抗議、取り下げを要請するしかなかった。

 また中国の申請書類は概要がユネスコのホームページで閲覧できるだけで、具体的な文書や写真が事前に公開されず、日本側の研究者からは「開示を求めるべきだ」といった声が聞かれた。

 登録へのプロセスが透明性に欠ける要因は、世界遺産や無形文化遺産との成り立ちの違いにある。他の2つと異なり、根拠となる国際条約がなく、政府に限らず自治体や団体、個人でも登録を申請できる。

 審査も他の2つが条約締約国の代表によって議論されるのに対し、記憶遺産の場合は事務局長が選んだ専門家によって行われる。政治利用を想定した枠組みとなっていないのも実態だ。

 文部科学省幹部は「手続きが簡略で、運営態勢も小規模。真正性や重要性がどのように調査されているかうかがい知れない。枠組みを改善すべきだという議論も必要になるかもしれない」と話している。


 なるほどねえ。そういえば、2011年に炭鉱夫の絵日記が日本で初めて登録されたニュースを知った時、わたしは「確かに面白い資料だけど、世界の遺産と呼ぶほど大層なものなんか?」と微妙な感じがしたのを覚えています。あれなんかも福岡の自治体と大学がちゃっちゃと申請したものがちゃっちゃと登録されちゃったんですね。もともと”その程度”の登録事業であるということです。

 日本政府は「ユネスコへの分担金・拠出金の停止や減額を検討する」と言い出しました。
 これまでずっと優等生としてのメンツを気にしてばかりいた日本が、カネの話題を持ちだして国際機関に圧力をかけるようになるなんて、ずいぶんと時代が変わったものです。しかも、菅官房長官だけでなく親中派で知られる二階俊博・自民党総務会長まで同様の発言をしたのは意外でした。
 そんなことを言い出せば、特亜が噛みつくのは当然のこと。朝鮮日報のソンウ・ジョン論説委員は「政治利用というなら、世界遺産になった原爆ドームや今回記憶遺産になった『舞鶴への生還』記録は、被害国アピールという立派な政治利用ではないか」と日本の姿勢を批判しました。
(2015/10/13 朝鮮日報日本語版 【萬物相】ユネスコを脅迫する日本の品格

 わたしも、こういう経済制裁はあまり良策と思いません。ユネスコは株式会社じゃないんですから、出したカネに見合うだけの影響力をよこせというのは横暴です。それに、もし日本が拠出を絞る代わりに中国がユネスコに大金を出すようになったら、日本は何も文句を言えなくなります。
 ユネスコのボコヴァ事務局長にしてみれば、「慰安婦関連資料は日本に配慮して却下してあげたのに…!」って思いはあるんじゃないでしょうか。

 南京事件について日本政府がこれまで問題にしてきたのは「30万人は多すぎる」ということだけで、非戦闘員の殺害や暴行略奪などについては否定していません。右派論客の櫻井よしこさんすら、日本軍が一定数の便衣兵を殺したことを「あっただろう」と認めています

 ウィキペディアによれば、過去に世界記憶遺産に登録されたものの中には、奴隷、植民地、難民、虐殺といったジャンルの資料がけっこう多く見られますから、今回の南京関連資料だって場違いとは言えませんし、申請が政治目的であるか否かは水掛け論にしかなりません。登録を本気で阻止したければ、資料の誤りや問題点を客観的かつ具体的に指摘するほかないわけで、たんに「意見の相違がある」「一方的だ」というボヤけた抗議が通用しないのも仕方ないかなという気がします。

「30万人は多すぎます」
「じゃあ何人ですか」
「よくわかりません。でも30万人は多すぎます!」
 …小学生じゃないんだから。

 日本の外務省って、こういう肝心なときに腰が引けたりピントのずれた主張をしちゃったりしがちですよね。明治日本の産業革命遺産の時だって、「強制労働」について直接論争することを避け、「対象年代が異なる」なんて訳の分からないことしか言えませんでした。
 今回は登録された文書には南京軍事法廷や極東国際軍事裁判の関連資料が含まれているとのこと。国連そのものがもともと戦勝国によって設立されたものなのですから、その正当性に異議を唱えることはいろんなリスクが伴うでしょうね。

 わたしはいわゆるリベラル教育を受けてきましたから、旧日本軍は南京で大虐殺をしたんだろうなとかつては漠然と信じてきました。でも、いまのわたしは生半可な知識を得たネトウヨですから、「虐殺ではなく便衣兵の掃討だ」「蒋介石のプロパガンダだ」「南京駐在の欧米人が、中国への同情と日本への憎悪から戦死体の山を虐殺の証拠と勘違いしたのだ」という反論も説得力があるように感じています。本多勝一をはじめとする朝日新聞の報道については、写真の間違いなども多く指摘されているようです。

 虐殺説の根拠になっているのは主観や伝聞が多くを占める日記や証言などが主のようですし、写真に残された死体の山だって、それが戦闘によるものなのか虐殺によるものなのかはなかなか判別がつきません。でも、根拠が曖昧だからこそ、なんとなく定着してしまった国際通念を覆すのは至難の業です。

 どうすりゃいいんですかね。
 愚考するに、日本として南京事件の検証をきちんと行い、当時の南京で何が行われたのかについて公式もしくはそれに準ずる見解を明らかにするという地道な作業が大切なんだと思います。世界記憶遺産に登録された資料はデジタルデータ化されて世界中の人々が簡単に閲覧できるようになるでしょう。資料が本当に世界の「遺産」にふさわしいものかどうかを明らかにする作業はこれからが本番です。
 その結果、登録資料に重大な欠点が見つかれば、中国とユネスコの信用は失墜するのですから、それは拠出金の停止なんかよりも大きなダメージになるはずです。さらにそれが軍事法廷のずさんさを証明することになれば一石二鳥です。
 一方で、一部であろうとも無抵抗の民間人を殺害するような事実があったのなら、日本はそれをきちんと認めなければいけません。われわれ日本人が真相の直視を拒んでいたら、結局また中国の宣伝戦に敗北することになります。「南京大虐殺はなかった」「南京大虐殺はでっちあげだ」といった発言は、南京事件の存在を全否定しているかのような印象を与えますから、気をつけたほうがいいでしょうね。

 ユネスコに経済制裁をちらつかせるにしても、官房長官がいきなり発言するよりもう少し利口なやり方がなかったんでしょうか。保守系の野党やメディアに騒がせ、それに押し切られるポーズをとるとか。・・・安倍首相ごときが「極右」呼ばわりされてる現状では難しいかな。
 少なくとも今回は「検討したが、今回は国際貢献の観点から拠出継続を決めた」と表明してユネスコに恩を売っておくのが無難じゃないでしょうか。で、常任理事国のくせにこういうときに限って発展途上国ヅラをするドケチな中国にチクチク嫌味を言ってやればいいのです。

 それよりも、今回の世界記憶遺産問題でわたしが興味深く感じたことが二つあります。

 一つは韓国の反応。
 彼らは今回の登録実現を我がことのように喜んでいますが、当時の朝鮮は日本だったのですから、どちらかといえば韓国は加害者側の立場のはず。こんなことに首を突っ込んで中国の肩を持ったら、ますます米国から嫌われかねません。韓国の皆さんはむしろ、中韓が共闘できるはずの慰安婦関連資料があえなく却下されたことに危機感を持つべきだと思うんですが、そんな様子はほとんど見られないのが不可解です。
 日本兵が中国で女性を強姦したり慰安婦にするために「強制連行」したりしたことについては、加害者側の具体的な証言もいくつか出ています。そんな中国の慰安婦資料すらユネスコに却下されたのですから、今後中韓が協力したところで、韓国のハルモニの証言集なんか役に立つとは思えないんですけどね。

 もう一つは、国際機関の権威に媚びるようになった中国の態度。
 これまでの中国は、国際的な常識や価値観とは一線を画してきました。政治体制や人権侵害を批判されるたびに「ウチにはウチのやり方がある。よその国がとやかく言うな」と突っぱねるのが常でした。2010年のノーベル賞選考ではノルウェーに対して「劉暁波に平和賞を与えるな」と露骨に圧力をかけ、それに失敗すると対抗措置として手前味噌な「孔子平和賞」を創設し世界中の失笑を買っていたものです。
 ところが今年、初めて理系分野で中国人のノーベル賞受賞者が出たとたん、これまでの反発はどこへやら、政治家もメディアも素直にはしゃいでいます。無邪気というか無節操というか。
 中国が国際機関で発言権を強め他国の共感を集めたいと望むなら、国際社会の価値観も受け入れなければなりません。70年以上も前の旧日本軍の行為を批判し平和や人権の尊さを強調するなら、他国から「じゃあ今のおまえはどうなんだ」とつつかれるリスクも受け入れなければなりません。

 蒋介石の南京プロパガンダが成功したのは、当時の日本が大きな軍事力をもって中国本土に攻め込んでいたという現実があり、欧米の同情を引けたからです。しかしいまや中国は、世界第2位の経済と世界第3位の軍事力を誇る世界最大の独裁国家にのし上がりました。へたな振る舞いをすれば、70年前の被害者ヅラなんかなんの隠れ蓑にもなりません。ユネスコの政治利用は中国にとって諸刃の剣です。

 結局、その国の主張が世界に受け入れられるかどうかは、その国の日頃の行動によって決まるのです。日本も、中国に反論する大前提として、誠実な歴史検証や国際貢献を地道に行っていくことが求められます。

 世界記憶遺産に関して言えば、このままの審査方法で登録物件が増えていけば、その権威は確実に落ちていくのではないかと想像します。個人的には、ヴォイニッチ手稿が登録される日を楽しみにしてるんですが。
 そんなのありえない? いや、だって憲法9条なんてものがノーベル賞候補にノミネートされるご時世ですからねえ…。
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テーマ : 歴史認識
ジャンル : 政治・経済

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