「両国に思惑のずれ」そればっかりの信毎(ていうか共同通信)
昨年7月の日米防衛相会談では「同盟強化 対中で温度差」、
昨年9月の日印首脳会談でも「中国めぐる距離感にずれ」。
そして今回の日米首脳会談でも「同盟強化 思惑にずれ」(3面)。

じゃあ具体的にどんなところからその「ずれ」がうかがえるのかというと、あいかわらず根拠が弱い。わたしが記事を読んだ限り、それらしいのは以下の部分だけでした。
だが対中抑止力の強化に関するオバマ政権の認識は「首相と一致しているとは言い難い。危機感が薄いのは否めない」(政府筋)のが実情だ。
オバマ氏に随行して来日したライス大統領補佐官は昨年4月、会食の席で、中国対策を念頭に置く首相から集団的自衛権行使容認に関する説明を聞かされた際に「初耳だったようで、意味が分からず戸惑っていた」(日米関係筋)とされる。オバマ氏側近の一人は今春、日本政府関係者に対し、今回の首脳会談で取り上げたい課題の筆頭に地球温暖化対策を挙げ「対中国戦略を話し合いたい日本との温度差を感じさせた」(関係筋)という。
…うう、なんだかどうでもいいエピソードですね。首脳会談の結果と関係ないし、たんにライス補佐官や大統領側近さんのボケっぷりを暴露してるだけじゃないですか。日本の集団的自衛権行使容認を米国が大歓迎していることは常識以前の話ですし、今回の首脳会談に関する信毎報道で地球温暖化対策について触れられているのは、日米共同ビジョン声明要旨の中に「気候変動や環境悪化が引き起こす脅威や伝染病への対処」とある部分だけです。
こんなつまんないエピソードを根拠に、関連記事の中では一番大きな字で「思惑にずれ」と大書するのって、印象操作というより完全に詐欺に近いものがありませんかね。
信毎はこの部分を根拠にむしろ米政府は、日本が軍事的コストを率先して引き受けた点に同盟強化の意義を見いだしている。国防予算に監視、米議会からの削減要求は強まる一方で、米軍の規模見直しや運用の効率化を迫られているためだ。
日本「中国への抑止力」 米「軍事負担肩代わり」
と中見出しをつけているのですが、これって「ずれ」といえるのかなあ。言ってみれば、東アジアの実質的な警察権を米国が日本に禅譲するってことですから、国際社会における日本の発言力は格段に増します。しかも日米同盟は強化されるのですから、米国はますます日本を軽視できなくなるでしょう。
そもそも尖閣問題が発生したのは1972年の沖縄返還のとき、中国を懐柔したかった米国が「施政権は日本に返還するけど領有権はシラネ」と無責任な態度をとったのが原因です。その意味では日本と米国の思惑は最初からずれているわけで、信毎の見出しは間違いではないけれど今さら大書するほどのものでもありません。
むしろ、今回の新ガイドライン作成や首脳会談を通じて日米同盟が強化されたわけですから、尖閣をめぐる両国の「ズレ」は以前より狭まったという解釈のほうが素直なはずです。実際、この記事のすぐ下では
日米2プラス2 抑止力強化一致
との見出しで、日米の外務・防衛担当閣僚が中国の海洋進出に対する抑止力を強化することで合意したと報じています。さらに他のページの関連記事の見出しを並べてみると。
1面
日米同盟強化で一致 首脳会談 TPP早期妥結へ連携
2面
成功へ布石打った首相 強固な同盟関係アピール狙う 米側は異例の厚遇
オバマ氏、日本語交え歓待
日本皮切りトップ会談 米アジア重視戦略の象徴
なんですかこりゃ。やっぱり日米はラブラブじゃないですか。
両国がこれほどラブラブぶりをアピールしなければならないのは、お互いその背後にいろんな不安を抱えているからというのも事実でしょう。AIIB、TPP、対中・対露政策、普天間……その他。
でも、現在の両国は意見の対立があってもお互いに面と向かって話し合う信頼関係ができています。軍事面で日本の役割が増大すれば、米国相手にさらに対等な交渉ができるようになるわけで、結構なことじゃないですか。もちろん今後防衛費は増えるだろうし自衛隊も甘っちょろい覚悟は許されなくなるでしょうけど、それが「普通の国」ってものですしねえ。
信毎さんおよび共同通信には、ライス補佐官の態度がどうだったの無名の側近氏が何を言っただの、つまらないうわさ話にすがって詐欺まがいの記事を書くよりも、もっと現実を直視した実のある報道をしてほしいものです。
ま、同じ紙面の社説の見出しにあるように、日米同盟そのものに批判的なメディアにそんなことを期待するのは無駄でしょうけど。