「相対的貧困」を振りかざすNHK擁護派の矛盾

子どもが親におもちゃをねだるとき、必ず言うセリフがありました。
「だって、クラスのみんなが持ってるよ」。
それをつっぱねる親の言葉もお決まりのものでした。
「よそはよそ、うちはうち」。
 口をとがらせる子どもに、親は畳みかけたものでした。
「エチオピアやバングラデシュの貧しい子どもたちはね、おもちゃどころかその日の食べ物すらなくて苦しんでいるんだよ」
「そんなの関係ないじゃん!」と反論しても通用せず、子どもはふてくされるしかありませんでした。

この会話は、いまNHKニュース7の「貧困女子高生」報道で熱くなっている「絶対的貧困」と「相対的貧困」の論争そのままですね。

アニメやゲームに散財してるくせに、あれのどこが貧困なんだ」と騒ぐNHK批判派。対して擁護派は「バッシングする連中は相対的貧困という概念を理解していない」「貧乏人にはささやかな趣味や贅沢すら許されないのか」と応戦しています。

 擁護派は「相対的貧困」を強調していますが、 わたしがYouTubeで視聴した限りでは、番組内で相対的貧困という言葉が使われることもなければ、それに類する概念が示されることもありませんでした。
 統計上の「相対的貧困」は、所得が中心値の半分以下の人々を指すもので、それが番組が冒頭に強調した「日本の子どもの6人に一人は貧困」の根拠です。しかし番組では「所得がある一定の水準に満たない貧困状態」と表現されていただけでした。
 
 巷では 「日本の相対的貧困率は先進国の中でも最悪レベル!」と騒がれておりますが、そもそも、OECDが調査した国別の相対的貧困率は机上の計算値ですから、日本国民の実情や実感と一致するとは限りません。
 病気の診断だって、レントゲンとか血液検査とか問診とか、いろんな観点から調べた上で結論を下しますよね。
 本気で貧困を把握したければ、当人の生活実態や自覚、周囲の認識やセーフティーネットの程度、居住地域や所属集団における比較など、多角的な視点が必要になります。日頃

「市民一人ひとりの実情に応じたきめ細かい福祉サービスを!」
「日本人はもっと世界に目を向けグローバルな価値観を持つべき!」

 と訴えている人権派(NHK擁護派)の皆さんが、内向きな杓子定規の典型ともいえる相対的貧困率をことさらに重視するのは、ちょっと矛盾してるような気がするんですよね。
 ま、統計なんて所詮道具ですから、誰でも好きなように利用すればいいのかもしれませんが。

 道具であるという点はテレビというメディアも同じです。報道番組にもストーリーがあり、ストーリーに沿って映像や音声が巧みに組み立てられているからこそ、視聴者は問題を理解し共感できるわけです。それはべつにいいんですが、今回のNHKは道具の使い方がずさんでした。

 貧困というテーマで真っ先に思い浮かぶのが【我々は敗戦の瓦礫の下から這い上がり、貧しいながらも努力して豊かな社会を実現した】という戦後日本のストーリー。これこそが日本人の誇りでした。
 小説やドラマでも、老若男女を問わず喜ばれるのは【困難に耐えながら(orものともせずに)夢に向かって努力する】式の物語です。
 しかしあの番組は、ほとんどこのセオリーの逆張りでした。

①貧困かどうかビミョーなのに本人は自分が不幸だと言っている
②貧困を乗り越える「努力」がイマイチ見えてこない
③本人の語る「夢」が甘い

 これだけそろってしまうと、視聴者から突っ込まれるのはある程度仕方がないんじゃないでしょうか。
 いや、女子高生当人を批判したいんじゃないんですよ。彼女はあの番組やイベントにおいて、自分に求められている役割を精一杯果たしただけですからね。わたしが批判したいのは、ビミョーな素材を安易に番組化して視聴者を納得させようとしたNHKの姿勢です。

①について。
 自分の不幸を公言しちゃう人って、日本人の間ではあまり好かれませんよね。まして相対的貧困というものは、その母集団(彼女の場合は学校)の中で当事者がどの位置にいるかが問題なわけですから、集団の外部の人間(視聴者)を共感させるには相当の工夫が必要です。でないと冒頭に挙げた親子の会話のように「もっと苦しい人はたくさんいる」と突っ込まれるリスクが高く、実際ネット上ではその通りになりました。
 たとえば親や友人の口から「あの子はとっても苦労してるんです…」と言わせたほうが、女子高生本人へのツッコミは少なかったでしょう。
 まあ、本人が堂々と貧困を訴えるのがイベントの主旨であり、番組の核でもあったわけですから、どうしようもなかったかもしれませんが。

②について。
 ネット上では、件の女子高生が自分の好きなことにはしっかりお金を使うタイプであったことが指摘されました。従来の貧困観とはギャップがあることは確かで、分かりやすい映像とストーリーで勝負しなければならない番組側としては、不都合な事実であったことは確かでしょう。
 彼女が持っているペンがいくら、DVDがいくら、ゲームソフトがいくら、ランチがいくらと畳みかける批判派に対して、
個々人の一場面を切り取って貧困を語るのはやめろ!
 と怒る声もありますが、だったらキーボードや保冷剤という”一場面”で貧困を語ろうとしたNHKは何なんだってことになるわけで。
 ま、彼女の本当の「現状」は番組から受ける印象ほど深刻ではないらしいということが明らかになったのですから、われわれ視聴者は腹を立てるのではなく、むしろホッとすべきかもしれませんw

③について。
 件の女子高生はアニメが好きで、将来はキャラデザの職に就きたいようですが、専門学校は必須条件じゃないだろうに――と、わたしのようなオッサンは言いたくなります。
 ネットに作品を公開してファンを獲得したり、同人活動に励んだり、コンテストに応募したり。できることはいくらでもあるはずなのに、「お金がなくて専門学校に行けないから将来は真っ暗」なんて短絡的な理屈で視聴者を同情させようとするのはちょっと乱暴だったんじゃないでしょうか。
 これがもし「看護学校に行きたい」「法律を勉強したい」せめて「美大を目指したい」とかだったら、観る側も抵抗感が少なかったんですけどね。
 そもそも貧乏が嫌ならもっと堅実な、もしくは稼げそうな職業を目指そうと思わないんですかね。母ちゃんを早く楽にしてやればいいのに。ま、大きなお世話ですけど。
 ていうか本気でデザインをやるつもりなら、なおさらちゃんと貯金して、早くパソコンとイラストレーターを買えるようになれよって話。あ、これも大きなお世話なのかなw


 繰り返しますけど、女子高生本人をバッシングするつもりはないんですよ。けれど出演者のツイッターがバレただけで背骨がぐらつくような番組を作ってしまったのはNHKの責任ですよね。一地方のイベントの一スピーチで収まっていれば何の問題もなかったものを、全国放送しちゃったわけですから。
 これがもし「貧困とは何か」を問う番組だったら、ネットの反応は全然違っていたはずです。
 もしくは、キーボードだの保冷剤だのといった中途半端な貧困アピールではなく、「進学できない」という部分に焦点を当ててもっと丁寧に描いていれば、へそ曲がりなネトウヨの揚げ足取りを防げたかもしれません。DVDやランチの値段と入学金や授業料の値段とでは次元が違いますからね。

 件の女子高生はイベントのスピーチで
「あなたの当たり前は当たり前じゃない人がいる」ことを知ってほしいと訴えました。
 番組のテーマは相対的貧困だ!というNHK擁護派の主張に沿えば、彼女のスピーチは「何を当たり前と感じるかは人それぞれに違うのだから、貧困の定義もみんな違ってみんないい」というメッセージだと受け取っていいんでしょうか。

 よくないですよね。

 本人としては、「あなたが当たり前に享受している幸せを、享受できていない人がすぐ身近にいるんですよ」もしくは「あなたの当たり前はもう当たり前じゃないんですよ」と訴えたかったのでしょう。イベントの主催者やNHKも、一人親家庭への支援拡充や大学無償化の実現に向けた世論作りがしたかったはずです。

 擁護派の相対的貧困論は、番組の一番肝心なメッセージをウヤムヤにしてしまうんですよね。
 相対的貧困率を本気でゼロにしようとすれば、民主カンプチアに倣うしかありませんが、そんなデストピアを望む日本人は誰もいないはずです。
 相対的貧困率という指標は、先進国民の貧困観を問い直すための手がかりの一つでしかなく、「目の前の貧困」を論じる役には立ちません。映画の入場料やランチの値段にこだわる批判派と、机上の数値を振りかざす擁護派。どっちの声がよりリアルに近いものでしょうか?
 貧困をめぐる議論で重要なのは、憲法で定められた「健康で文化的な最低限度の生活」とは何かを突き詰め、日本国民の共通認識をそれぞれの時代に応じて適切に調整していくこと。これは結局、日本国内における「絶対的貧困」を論じることにほかなりません。

 高利奨学金の是正や一人親世帯への支援など、行政による対策はもちろん必要ですが、日本経済を建て直さなきゃ貧困問題はどうにもなりません。さもなければ、貧困線の引き上げどころか現状維持すらできない時代が到来するかもしれない――そういう危機意識を持っている人ほど、あの番組やツイッターに物申したくなるんじゃないでしょうか。
 だからこそリベラル系野党のみなさんには、アベノミクスに取って代わる頼もしい経済政策の提示が期待されているのに、残念ながら彼らにはその自覚も能力もありません。彼らができるのは批判と要求だけ。だから議論のすり替えや逆ギレで逃げ、片山さつきバッシングに没頭して保守派の軽蔑を買うのです。不幸ですねえ。

 NHKは罪深い番組を流してしまったものです。
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