信毎「改憲は民意じゃない!」 必死の遠吠えが支離滅裂

衆院選の与党大勝を受けた信濃毎日新聞の社説(2017年10月23日)は、「改憲は信任されたのか」と大見出しを打ち、「今回の選挙で、自民の掲げる改憲が国民の支持を得たとすることには異を唱えておきたい。幾つか理由がある。」として、その理由を列挙していました。
要約して箇条書きにすると以下の通り。
  1. 今回の与党大勝は、野党の戦略ミスによるところが大きい。小選挙区で圧倒的な議席数を確保したからといって、有権者の支持をストレートに映したものではない。
  2. 自民の公約は生煮えであり、自衛隊明記案は党内論議もまとまっていない。公約の柱に据えたといっても、街頭演説で積極的に訴えておらず、改憲戦力とされる他の野党も含め、選挙戦では議論が深まらなかった。
  3. 憲法9条の改悪に反対した立憲民主党が躍進した。
  4. 共同通信の世論調査では、安倍政権下の改憲について「反対」が「賛成」を上回っている。
興味深いのは、この社説が冒頭で問題にしているのは「自民の掲げる改憲」であって、「改憲」そのものではないということです。そりゃそうですよね。今回の選挙の結果、公明党や希望の党を含めれば改憲勢力が全議席の約8割を占めることになりました。もはや信毎すら、「憲法は一言一句変更する必要はない」「改正議論もすべきでない」と主張するような護憲原理派を擁護できなくなったのです。

それはともかく、上記の4項目を理由に「自民党の改憲案は国民に信任されたわけではない」と主張するのは、正しいのでしょうか。

選挙に勝ったからといって党の改憲案がそのまま承認されたことにならないのはそのとおりだと思いますが、この社説の理屈は、かなりいびつな印象です。
そもそも、具体的な改憲案が国民の審判に委ねられるのは国民投票においてであって、選挙の場ではありません。自民党草案も安倍首相の提案も、議論の呼び水として示されたにすぎません。国会ではまだ具体的な議論がまったくなされていない現時点で「選挙に勝ったからって、おまえらの改憲案が認められたわけじゃないんだからな!」と言わずもがなのことを吠えるのは、まるで負け犬の勇み足みたいで無様です。
 社説が挙げた4項目のそれぞれも突っ込みどころが多いです。

●理由1=野党の自滅について。
オレたちがうまくやっていたらアイツらに勝てたかもしれない、だからアイツらの勝利は本物じゃない――野党や信毎は、選挙のたびにこんな負け惜しみを言い続けていますが、恥ずかしくないんですかね。スポーツ選手が敗戦後に同じセリフを口にしたら、監督にぶんなぐられますよ。村田諒太だって、5月の世界戦では戦略ミスの結果微妙な判定で破れましたが、試合後も愚痴を言わず、再挑戦で見事TKO勝利し世界タイトルを奪取しました。
敗者に求められるのは、愚痴や泣き言ではなく敗戦の原因を冷静に分析することです。そもそも、小選挙区制に死票が多いことは周知の事実なのですから、それが不満ならば選挙制度改革を主張すべきなのに、野党もリベラル系マスコミも、まったく触れていませんでしたよね。彼らにとっても、小選挙区制度は「負け惜しみツール」として必要不可欠なのでしょう。

●理由2=公約の生煮え性について。
ただの呼び水を「煮えてない」と批判しても意味がないことは上述の通り。また、選挙戦で議論が不足していたから無視していいというのは暴論でしょう。
与党が憲法改正を発議できる3分の2を獲得できるかは、これまでの国政選挙でもつねに焦点になってきました。自公の候補が街頭演説で憲法問題に触れることは少なかったかもしれませんが、自民党が改憲を公約の柱に引き上げたことは揺るぎない事実ですし、民進党を分裂させたくさびもまさに憲法観・安保観でした。テレビの党首討論や新聞の選挙特集でも大きなテーマとして扱われていました。この問題がいままでになくクローズアップされていたことは疑いようがありません。
そういう事実がある以上、選挙後になって「憲法は争点にならなかった」と言い繕うのは、護憲派サヨクの負け惜しみならともかく、メディアまでそれに便乗してしまっては自己否定も同然です。
それにどうせ、もし野党が勝ってたら、絶対に信毎は「国民が改憲にノーをつきつけた!」と書き立てていたことでしょう。

●理由3=立民の躍進について。
立民が躍進した背景には希望と共産の惨敗があり、要するに左派系野党が仲間の票を食い合っただけのことですから、信毎の主張はほとんどフェイクに近いものがあります。議員定数が減少したにもかかわらず与党の議席数は選挙前と比べて変化なし。改憲に及び腰な公明が大きく議席を減らした結果、自民党は存在感を増しました。結果的に改憲勢力とされる議員が8割を占めることになった現実を直視しないメディアは、世論の代弁者の資格がありません。

●理由4=世論調査について。
これは事実そのとおりなのでしょうから、信毎は最初からこれを前面に押し出せばいいのにと思います。


信毎は社説の末尾近くで次のように訴えています。

憲法は国民の権利を守るために国家権力を縛るものだ。…とりわけ9条のように賛否が二分する項目を国民投票に持ち込めば社会に深刻な分断を生じる。数頼みは許されない。改憲の発議は慎重であるべきだ。



自民党案だろうがなんだろうが、改憲させたくない本音がよく分かります。たとえ国民の99%が改憲に賛成しても、「数頼み」「数の横暴」と言いかねませんね。

信毎が心配するまでもなく、改憲は当分実現しないでしょう。改憲勢力が8割を占めるといっても、こういう難しい問題はいざ具体的議論に入ると総論賛成各論反対で紛糾するのが常ですし、党の方針に背いて改憲反対に回る議員も出てくるでしょう。そもそも現行憲法は事実上、捕縛縄どころかゴムひも並にユルユルですから、国民にとっては、どうしても改憲しなければならない理由が見当たりません。第二次朝鮮戦争が勃発するとか、中国が台湾併呑・尖閣奪取を本格化するとかいった派手なことが起きない限り、憲法はいまのまま温存されるでしょう。

安倍首相も、支持率を犠牲にしてまで改憲をゴリ押しする気はありません。出したりひっこめたりして少しずつ国民の「改憲アレルギー」を薄めていくしかないことを、安倍政権はよく分かっているはずです。
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No title

はじめまして。

憲法9条というのは、経済政策も、外交・安全保障、ルックスも全く冴えない左派政党が自分たちを輝かせる最後の拠り所のようなものじゃないんでしょうね。

しかし、護憲に特化しているのに、護憲派メディアはこのような論説しか書けないんでしょうか。信濃毎日に言いたいのですが、憲法改正の国民投票があろうとなかろうと、現行9条に関して国論は二分されて、安全保障上の意思決定ができないという厄介な事態になっていますよ。国民投票は、この現状を打破するチャンスと考えるべきではないのですか?

ところで、左派勢力の反論が選挙制度などの周辺問題に向きがちなのは、とりもなおさず、安倍改憲案(自衛隊明記案)が従来の自民党案(自衛隊の軍隊化)より大幅に穏当なもので、かなりの有権者が賛成しそうだからだと思われます。そうすると、安倍改憲案は、9条にまつわる国民の対立を鎮静化させる方向での改憲といえ、国民投票が国民を分断するという信濃毎日の懸念は的外れだということになります。

反論するのであれば、左派勢力は、「安倍改憲案は、現状の対立を鎮静化する名案のように見えるけれども、実は、そうではない。」と反論すべきです。自衛隊明記案の問題点は、戦力不保持原則を残しながら、3項に自衛隊(=戦力を超えない実力組織)の保持を認める規定を置くことです。そうすると、実力組織の枠を超えて戦力に至っているかどうかという論点で国民が二分されるので、単純な自衛隊明記案では、新たな対立が生じるだけで、問題解決にはならないのです。信濃毎日は、まず、この点を突くのが本筋でしょう。

もう一つ、安倍総理の提案には問題があります。それは、自衛隊違憲説が有力な現状は自衛隊員の気持ちを傷つけるという理由づけです。自衛隊違憲説が有力なことの問題点は、自衛隊員の気持ち云々ではなく、巨大な実力組織の存在を基礎付ける法的根拠が危ういということです。これは、法治国家においてはあってはならないということです。

護憲派メディアや護憲派の論客は、安倍改憲案が気に食わないのであれば、情緒的な反論ではなく、具体的・論理的で、相手の急所を突くような反論をしてください。

Re:No title

こんにちは。

安倍改憲案には、わたしもPALCOMさんとほぼ同様の理由から不満です。憲法は日本国民のプライドに関わるものですから、憲法の条項同士が矛盾をきたすような見苦しいその場しのぎはやめてほしいものです。
9条2項をそのまま温存する安倍案は公明党などを意識したものでしょうから、今回公明党が議席を減らしたのは幸いでした。

>憲法改正の国民投票があろうとなかろうと、現行9条に関して国論は二分されて、安全保障上の意思決定ができないという厄介な事態になっていますよ。

もし現行9条のせいで日本の国益が具体的に毀損される事態が発生すれば、発議も国民投票もスムーズに行われるでしょう。逆に、そういう事態が発生しない限り、ダラダラと議論ばかりが続くのではないかと思います。

>護憲派メディアや護憲派の論客は、安倍改憲案が気に食わないのであれば、情緒的な反論ではなく、具体的・論理的で、相手の急所を突くような反論をしてください。

護憲派に論理的な議論を要求するのは酷というものですw
世界のほぼすべての国が保持している軍事力と集団的自衛権を、日本だけが放棄・自制しなければならない理由を論理的に説明することは不可能でしょう。
また、誰の改正案にしろ具体的な問題点を指摘してしまったら、その問題点がクリアされた時点で改憲に反対できなくなります。

立憲民主や共産社民がいくら抵抗したところで、これからの国会の改憲論議は改憲の可否ではなく具体的な改正内容になってくるでしょう。
信毎がそれをきちんと報じるかどうか。愛読者wの一人として注目していきたいと思います。

No title

日本人は、議論が苦手なので、せめてインテリを自称する左翼の論客には頑張ってほしいのですが(皮肉ではなく)、一般人に輪をかけて観念的な主張しかしないので困ったものです。

左翼は、自衛隊を9条に明記すると自衛隊の活動範囲が広がるという理由で9条改正に反対しているようですが、9条を改正しなくても、戦後一貫して活動範囲は広がってきました。緩い条文構造の下で、ジャイアン(アメリカ)と付き合っている以上、9条を改正するかどうかとは無関係に活動範囲が広がっていくことは避けられないでしょう。

自民党が自衛隊明記という具体案を出してきたのならば、「1項・2項と論理的に整合させるためには、最低限ここまで練らなくてはだめだ!自民党案はそれとはかけ離れている!」という具体的かつ論理的な反論をしてほしいのですけどね。
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